消化器・泌尿器科
血尿が出ました。どうしましょう?
こんにちは。消化器・泌尿器科の庄山俊宏です。
泌尿器科には季節に関係なく血尿のわんちゃんやねこちゃんが多く来院します。
人間とは違い、動物は血尿が非常に出やすいです。
原因としてはストレス性の事が多く、ペットホテルやトリミング、入院や遠方への外出時などでストレスが強めにかかるとストレス性膀胱炎になり、血尿や頻尿が出ます。
わんちゃんかねこちゃんかで血尿の原因は少し異なりますが、病気となると細菌性膀胱炎や尿路結石、腫瘍関連(腎臓腫瘍や膀胱腫瘍)、血液疾患など原因は様々です。
レントゲン画像 膀胱結石(矢印)
超音波画像 膀胱腫瘍(矢印)
原因によって治療法は全く異なります。
細菌性膀胱炎であれば薬(抗生剤)の投与、結石の場合は食事療法や手術、腫瘍の場合は抗がん剤や手術となります。
血尿の原因を特定する事は治療方針を考えていく上で非常に重要となり、そのために尿検査や画像検査(レントゲン検査や超音波検査)、状況に応じて血液検査を実施しています。
尿検査は自宅で採取した尿を持参していただくか病院で採取した尿のどちらかで実施します。
ご自宅で採取する際には容器の中に尿を入れて、病院へ持参していただく事になりますが、可能であれば密閉できるプラスチック製の容器に入れる事が望ましいです。必要があれば、病院から採取用容器をお渡しします。
採尿容器
採取から時間が経つと正確な検査結果が反映されない事があります。
採尿から1時間以内に検査するのが理想的ですが、実際には難しい事がほとんどだと思います。
したがって、採尿から来院まで時間がかかりそうな場合は細菌の増殖予防として冷蔵保存していただく事が望ましいです。
レントゲン検査や超音波検査では結石や腫瘍性疾患がないかを確認し、尿検査の結果と併せて総合的に血尿の原因を特定していきます。
血尿は様々な原因で起こり、確率的には低いですが癌が隠れている事もあります。癌に限らず血尿で手術が必要になる病気も多いため血尿が続いた場合は当院へご相談していただければと思います。
ユリ中毒にご注意下さい。
こんにちは。消化器・泌尿器科担当の庄山俊宏です。
6月に入り暑くなってきました。
6月の誕生花にユリがあり私達にとって身近な植物ですが、実は猫にとっては非常に猛毒です。
厳密にはユリ科に属している多くの植物がユリ中毒を引き起こします。
カサブランカやテッポウユリが代表的なユリですが、チューリップもユリ科の植物でユリ中毒の原因になります。
カサブランカ
テッポウユリ
チューリップ
発症すると重篤な急性腎不全(急性尿細管障害・壊死)に陥り、命に関わる事も多く非常に怖い中毒です。
ユリの花や葉、茎、花粉など、どの部分を摂取しても中毒が引き起こされます。
明確な中毒量は特定されておらず、花を生けた水を舐めただけでも中毒を引き起こす事があります。
症状は急性嘔吐、活動性・食欲の低下、尿が少ない・出ない、流涎などです。
しかし、様々な病気で同様の症状が出るため、症状のみで疑いや確定させる事は困難です。
診断はユリを摂取した可能性がある事の聴取、症状、腎数値の高値などを総合的に判断します。
治療としては摂取したばかりであれば吐かせる処置(催吐処置)や胃カメラを入れて胃洗浄をする事もあります。
しかし、それだけでは中毒発症を抑えられない事が多く、解毒剤などの特効薬はありませんので点滴や吸着剤の投与など内科治療を実施します。重篤な場合は透析が必要になる事があります。
猫に対してユリ科植物が猛毒である事は近年広く知られるようになりましたが、犬もユリ中毒を引き起こしうる事はあまり知られていません。
猫のような重篤な急性腎不全は引き起こす可能性は極めて低いですが、嘔吐や食欲低下、流涎などが引き起こされます。
診断や治療法は猫と大きく変わりありません。
以上のように犬や猫と生活する際にはユリ科の植物は十分に注意が必要になります。
もし、ご自宅でユリ科の植物を飾る際には絶対に動物の届かない場所へ置いて下さい。
ただ、動物の事を考えると可能な限り室内へ持ち込まない方が良いかと思います。
また、どなたかにユリ科の植物を送る際には犬や猫と一緒に生活しているかを事前に尋ねていただいた方が安心かと思われます。
動物にとって危険な植物はユリ以外にも様々ありますので、何かご不明な点がございましたら当院へお問い合わせ下さい。
猫の尿管結石
皆様、こんにちは。
消化器・泌尿器科を担当している獣医師の庄山俊宏です。
ここ最近急激に暑くなり、わんちゃんや小さなお子様は熱中症に注意が必要となる時期になってきました。
私ごとではありますが、毎年この時期に思い出すのが尿管結石を患った時の痛みです(^ ^;)。
6年前の今頃の夜中に、私の背中らへんに突然激痛が走りました。
我慢ができなくなり、救急車を呼び、病院でCT検査を実施しました。
原因は尿管結石と判明し、内科治療ですぐに良化し事無きを得ましたが、いつ再発するか内心ドキドキしています。
そんな尿管結石はわんちゃん、ねこちゃんにも起こる病気です。
私が泌尿器科を担当している事も関係していると思われますが、近年猫における尿管結石が非常に多くなっている印象です。
尿管は尿を作る腎臓と尿をためる袋の膀胱の間にある尿を運ぶ管を指します。
人間の尿管の太さは5mmから1cmと言われていますが、ねこちゃんの尿管の太さは平均1mm程度(内腔は0.8mm程度)と非常に細いです。
1mmの管といってもピンとこないかもしれませんが、1円玉や10円玉の厚さが1.5mmなので、それよりも更に細い管状の構造物とイメージしてもらえればと思います。
そんなねこちゃんのほそ――い尿管には1-3mmの小さな結石がよく詰まります。
下の写真は摘出した結石ですが、こんな小さな結石のせいで生死の境をさまようねこちゃんが世の中にたくさんいます。
下のレントゲンに写っている尿管結石は2mm程度の石です。
猫の尿管結石はどの品種にも起こり得ますが、アメリカンショートヘアやスコティッシュフォールドによく発症するというデータが麻布大学から出ており、経験的にも同じ印象です。
人は私のように激痛が伴い病院へ行きますが、動物は人ほど痛みが強くないとされています。
実際に尿管結石があるねこちゃん達を診察しても痛みを検出できる事は少ないです。
猫の尿管結石が発見される時は、健康診断や定期検査で見つかる場合もしくは腎臓の値が高くなり具合が悪くなる場合に分かれます。
病院に来院する尿管結石のねこちゃんの9割以上は具合が悪くなった状態(腎臓が悪くなっている状態)で発見されます。
つまり、早急に治療が必要な事が多いです。
猫の尿管結石の治療法は結石が1mm以下であれば、内科治療(お薬や点滴など)で良くなる可能性があります。
しかし、1mm以上の尿管結石は尿管の太さより大きいため内科治療がうまくいかない場合が多いです。
その場合は手術をして尿管結石を摘出する場合があります。
尿管結石が詰まっている尿管の太さは2-5mm程度と通常の尿管と比較して太くなっていますが、肉眼での手術は困難です。そこで、当院では手術用の顕微鏡を使用して尿管を切開し、結石を取り出しています。
手術用顕微鏡を使用すれば最大16倍まで拡大でき、髪の毛より細い糸で尿管を確実に縫合する事が可能になります。
そして、顕微鏡を使用する事で尿管の手術の合併症を減らす事が可能になり私にとってなくてはならない医療器具の一つになっています。
尿管結石の治療法が向上する事も大事ですが、尿管結石の予防や早期に発見し早期に治療する事も大事かと思います。
ねこちゃんの尿管結石は時に重度の腎不全を引き起こし、命を落としてしまう可能性がある怖い病気の一つだからです。
我が家にも2頭のねこちゃんがいますが、赤ちゃんと触れ合っている姿をみると心があたたかくなり、長生きしてほしいなあとよく思います。
最後にうちの猫達を健診してから1年が経過しようとしており、そろそろ健診の時期かなと考えています。
健診は尿管結石以外の疾患も早期に発見できる可能性があります。
皆様にとって家族の一員であるわんちゃん・ねこちゃんのためにも、病気がなくとも最低でも1年に1回は健康診断(血液検査や画像検査など)をうけてみてはいかがでしょうか?
猫さんの水分摂取量について
皆様、こんにちは。
2021年3月から当院の消化器・泌尿器科を担当させていただくことになりました庄山俊宏(しょうやまとしひろ)と申します。
今回は猫さんの水分摂取量について触れていきたいと思います。
一般的に生物は年齢をかさねるにごとに腎臓の機能が徐々に低下します。
特に猫さんは人間やわんちゃんと比較して飲水量が少なく腎臓の機能が低下しやすい傾向にあります。
腎臓病の予防や治療(悪化を防ぐ事)として、水分摂取量を増やす事は非常に大事なことです。
しかし、人間であれば「水を頑張って飲んで下さい」と言えるのですが、動物の場合水をすすめても飲んでくれない事がほとんどだと思います。
今回は、そんな水を中々飲んでくれない猫さんの水分摂取量を増やす方法をいくつかご紹介したいと思います。
大きく分けて2通りあり、食事中の水分量を増やす方法と飲水量を増加させる方法があります。
食事中の水分量の増加方法
- ゴハンに水やお湯を入れるドライフードに水あるいはお湯を10-20cc足す方法です。器に入れたご飯が浸るよりやや少なめが目安です。ただし、水分を加えると食べない子もいます。その場合は無理せずに少量の水から始めるか、違う方法を試した方がいいかもしれません。
- ウェットフードをあげる
ウェットフードとは缶詰やパウチ、チュールなどの水分含有量が多い食事の総称です。この食事は匂いや嗜好性も良いため好んで食べてくれる子が多いです。ウェットフード単独であげてもいいですし、カリカリに混ぜてもいいと思います。また、おやつとしてあげるのも一つですが、パウチやチュールはあげすぎには注意が必要です。
飲水量を増やす工夫
動物にとって水を飲む環境というのは非常に大事な事です。飲水環境を変化させる事で飲水量を増加させる事ができる可能性があります。
- 水の温度
猫さんは冷水よりぬるま湯を比較的好みます。
- 水の種類
水道水を好む場合やカルキ抜きの水が好きな子もいます。ミネラル水も良いですが、硬水はミネラル成分(カルシウムなど)が多く尿石症になりやすいので、軟水をあげるようにして下さい。
- 器の種類
光の反射が原因でステンレス製の器を嫌がる子もいます。陶器やプラスチック性の器を好む子もいますので色々試してみましょう。また、止まっている水ではなく流水が好きな子もおり、近年は循環式の自動給水機も販売されていますのでうまく活用してみるのも一つです。
- 器の場所
猫さんは静かで薄暗い場所(リビングから離れた2階の寝室や脱衣所など)でゆっくり飲みたい子が多いです。
- 器の数
猫さんの頭数(グループ数)+1個以上が理想です。2頭いるなら3個以上です。
- スポイトなどで飲ます
目的の量を入れられますが、嫌がる子が多いです。嫌がらなければいいですが、無理はしない方が良いでしょう。
今回ご紹介した水分摂取量を増やす方法は、腎臓病や尿路結石の治療で有効とされています。
また、健康な子でも腎臓病や結石の予防として実施していただいても問題ないです。
ちなみに僕の家で生活している2頭の猫さんはお湯をかけたご飯をよく食べてくれていますが、この方法では食べない子も多くいます。
皆様も無理ない範囲で色々と試してみていただけると良いと思います。
また、水分摂取量を増加させるいい方法が他に何かありましたら是非教えていただければと思います。