骨・関節の病気

骨折治療

小動物領域の骨折治療には、手術を行わない副子固定法や、手術を行う内固定法(プレート法、テンションバンドワイヤー法、インターロッキングネイル法など)、創外固定法などさまざまな方法があります。骨折箇所や骨折の状態に応じて、適切な治療方法を選択し実施することが必要です。不適切な治療方法を選択すると、癒合不全(骨がくっつかない)や変形癒合(骨はつくが、正常とは異なる方向にくっついてしまう)などの合併症が発生する可能性が高くなります。
当院整形外科では、さまざまな骨折に対応するため、複数種類のインプラント(プレートやスクリューなど)を用意して骨折治療を行っています。

橈尺骨骨折

小型犬に最も多く見られる骨折が前腕(橈骨・尺骨)の骨折です。小型犬の骨は非常に細く、わずか数ミリの厚さしかありません。当院では主にプレート法による整復を実施しています。

骨幹部単純横骨折の術前・術後レントゲン

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橈尺骨骨折(術前)
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橈尺骨骨折(術後)
 

骨折の位置によっては、小さな骨折片に2本のスクリューを設置できる特殊な形状のプレートを使用することもあります。

骨幹端骨折をT字プレートで整復したレントゲン

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遠位端の橈尺骨骨折(術前)
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遠位端の橈尺骨骨折(術後)
橈尺骨骨折に保存治療を行った場合、癒合不全や変形癒合の可能性が高くなるため、適応には慎重な判断が必要です。また、不適切な手術を受けた場合にも同様のリスクがあり、小型犬の橈尺骨骨折は特に合併症が多いとされています。当院では癒合不全の治療にも力を入れています。

癒合不全症例(保存治療)をプレート治療したレントゲン

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橈尺骨骨折の癒合不全(術前)
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橈尺骨骨折の癒合不全(術後)
 
 

成長板骨折

成長板は、成長期の長幹骨(橈骨や大腿骨、脛骨など)の両端にあり、骨の伸長に関わる部分です。成長板は周囲の骨と比較して脆弱なため、骨折が起こりやすい部位です。成長板骨折の治療では、成長板を障害しないようにピンやワイヤーを用いた治療を行います。多くのケースでピンやワイヤーは3~6週間ほどで除去します。

大腿骨遠位成長板骨折 クロスピン

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大腿骨遠位成長板骨折(術前)
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大腿骨遠位成長板骨折(術後)
 
 

その他の骨折

当院では、骨盤骨折や関節内骨折、癒合不全治療など、複雑な骨折の治療も多く行っています。骨折治療にお困りの際は、ぜひご相談ください。

骨盤骨折

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骨盤骨折(術前) 
多くの骨盤骨折では同時に複数箇所で骨折・脱臼します
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骨盤骨折(術後) 
骨折部位をプレートを用いて整復し、脱臼部位はスクリューで固定しています

 

大腿骨粉砕骨折①

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大腿骨粉砕骨折①(術前) 
骨片が3つ以上に分かれる骨折を粉砕骨折といいます。
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大腿骨粉砕骨折①(術後) 
骨片が大きい場合は可能な限り元の形に戻し強固な固定を行います

 

大腿骨粉砕骨折②

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大腿骨粉砕骨折②(術前) 
複数の微小な骨片を伴う粉砕骨折です
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大腿骨粉砕骨折②(術後) 
インターロッキングネイル法による固定を行っています

関節外科

膝蓋骨内方脱臼

膝蓋骨(膝のお皿、パテラとも呼ばれる)は、大腿骨にある滑車溝を上下に移動することで膝の伸展運動を円滑にする役割があります。膝蓋骨が滑車溝の内側に脱臼する疾患を膝蓋骨内方脱臼といいます。膝蓋骨内方脱臼はチワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなどの小型犬や、柴犬などの中型犬でよく見られます。

治療は脱臼のグレード(4段階)と臨床徴候の有無、年齢、活動性などによって決定します。

 

A. 外科治療

脱臼グレードの改善は外科的治療でのみ得られます。骨や筋肉の状態に応じて、以下の術式を選択し組み合わせることで脱臼しない膝関節を作ります。

① 滑車溝造溝術

② 縫工筋リリース、内側広筋リリース

③ 外側支帯縫縮術

④ 脛骨粗面転移術

⑤ 脛骨内旋制動術

⑥ 変形矯正骨切り術 など

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膝蓋骨内方脱臼:膝蓋骨内方脱臼の整復手術では複数の術式を組み合わせて行います

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重度の膝蓋骨内方脱臼(術前):大腿骨と脛骨に重度の変形を伴う膝蓋骨内方脱臼です

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重度の膝蓋骨内方脱臼(術後):骨を切りプレートで固定することで変形を矯正します

 

B. 内科治療

内科治療は減量、環境整備(滑りにくい床、段差の少ない空間)、サプリメントなどで膝蓋骨内方脱臼の悪化を抑制することを目的とします。

 

 

前十字靭帯断裂

前十字靭帯断裂は、犬の整形外科疾患の中でも特に多い病気の一つです。主に大型犬や中型犬に発生しますが、国内では小型犬において膝蓋骨内方脱臼を伴って発症するケースも多く見られます。

人の前十字靭帯断裂はスポーツ選手が競技中に強い外力を受けて起こることが一般的ですが、動物の場合は外傷性の断裂は少なく、加齢による靭帯の変性(元に戻らない変化、劣化)により、ロープがほつれるように徐々に断裂が進行します。

前十字靭帯が断裂すると膝関節が不安定になり、さまざまな跛行が認められます。保存治療(安静・装具・消炎鎮痛剤など)で改善することもありますが、多くの場合は膝関節の不安定性が解消されず、跛行が持続します。また、関節炎も進行していくため、治療の第一選択として外科的治療が推奨されます。

 

A. TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)

TPLOは前十字靭帯断裂の治療法として広く行われており、多くの場合、術後経過は非常に良好です。この手術は、大腿骨が乗る脛骨高平部の角度(TPA)を地面と平行にすることで、靭帯が断裂していても患肢を着地した時に膝関節を安定化させることを目的としています。従来は小型犬への適用が難しいとされていましたが、現在では様々なサイズのインプラントが開発されたことから小型犬でも対応可能になりました。

当院では、膝蓋骨内方脱臼を併発した症例に対するm-TPLOや、脛骨高平部の角度が非常に大きい症例(eTPA)への対応も可能です。

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前十字靭帯断裂

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TPLO術後

 

B. 関節外法

関節外法は、TPLOが普及する以前から実施されている手術法です。TPLOと比較して、術後に軽度の不安定性や変形性関節症の進行が見られる場合がありますが、術後の予後は良好で、現在でも多くの動物病院で実施されています。この手術では、強度の高い編み糸を使用して膝関節を安定化させます。

 

肩関節脱臼/肩関節不安定症

肩関節の脱臼には、先天性と後天性があります。

先天性の肩関節脱臼は、ポメラニアンやチワワなどの小型犬で稀に認められます。ほとんどの場合、前肢の挙上などの臨床徴候を示すことはなく、胸部のレントゲン検査を行った時などに偶然発見されることが多いです。臨床徴候がない場合には、体重管理や環境整備に注意しながら経過観察を行い、治療が必要になることは稀です。

後天性の肩関節脱臼は、外傷によるものと肩関節不安定症に続発するものに分けられます。先天性の場合とは異なり、顕著な跛行が認められます。初めての脱臼や受傷直後の場合、非観血的整復(手術をせずに関節を元に戻す処置)と包帯による固定で改善する場合があります。しかし、繰り返し脱臼したり、脱臼してから時間が経過している場合には手術が必要となります。当院では、可能な限り関節を温存する人工靭帯法を推奨しています。

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肩関節脱臼に対する人工靭帯法:スクリューと人工靭帯を用いて靭帯の再建をおこないます

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肩関節脱臼に対する肩関節固定術

 

股関節形成不全

股関節形成不全は、犬の股関節における異常な発育が原因で発症します。遺伝的要因が主な原因とされていますが、環境要因や栄養管理、成長速度なども影響を与えることがあります。この病気を持つ犬は、さまざまな症状を示します。初期症状には、後肢の跛行、運動の不活発、座ることを嫌がるなどが含まれます。病気が進行すると、関節の硬直や痛み、筋肉の萎縮、運動能力の低下が見られることがあります。

診断は、触診による関節の異常の確認やX線検査によって行われます。X線検査では、関節の隙間の広がりや骨の変形などが確認されます。治療には内科的治療と外科的治療の2つのアプローチがあります。

 

内科的治療

内科的治療の目的は、痛みの管理と関節機能の維持です。以下の方法が一般的に用いられます

  • 体重管理:肥満は股関節に余分な負担をかけるため、適正体重の維持が重要です。
  • リハビリテーション:関節の柔軟性と筋力を維持するため、適切な運動療法が推奨されます。
  • 抗炎症薬:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用して痛みを和らげ、炎症を抑えます。

 

外科的治療

内科的治療で症状が改善しない場合や、重度の股関節形成不全が見られる場合には外科的治療が検討されます。代表的な手術方法は以下の通りです

  • 股関節置換術:股関節全体を人工関節に置き換える手術です。重度の痛みや機能障害がある場合に適用されます。ご希望の場合は実施可能な施設をご紹介いたします。
  • 大腿骨頭骨頸部切除術:股関節の変形により生じる骨同士の接触痛をなくすため、関節を構成する骨の一部を切除します。切除された関節は偽関節となりますが、日常生活を送るのに十分な機能の改善が期待できます。

 

股関節形成不全は犬の生活の質に大きな影響を与える病気であるため、早期の診断と適切な治療が重要です。


 

整形内科

炎症性関節炎

炎症性関節炎の代表的な疾患として、関節リウマチと多発性関節炎があります。これらは免疫系が誤って自己の関節を攻撃する自己免疫疾患です。

関節リウマチは慢性的な関節の炎症と骨破壊を引き起こします。病気が進行すると、関節の変形や機能障害が生じ、歩行が困難となります。

診断は、臨床症状や血液検査、X線検査、関節液の分析などに基づいて行われます。治療は症状の緩和と進行の抑制を目的として、抗炎症薬や免疫抑制剤の投与、リハビリテーション、体重管理などを行います。重症の場合は関節固定術が検討されることもあります。残念ながら一度進行してしまった骨破壊を再生する治療法はありません。そのため早期発見と適切な治療が、犬の生活の質を向上させるポイントとなります。

多発性関節炎は関節リウマチとは異なり骨の破壊はありませんが、複数の関節に炎症を引き起こし、発熱や関節の腫れが起こります。治療には免疫抑制剤や抗炎症薬の投与を行います。多くの場合、長期間の内服治療が必要となるため、定期的な血液検査が重要です。

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関節リウマチ:関節リウマチの後発部位は足首と手首の関節です

 

 

変形性関節症

変形性関節症(OA)は、犬の関節における慢性疾患で、関節軟骨の摩耗と骨の変形が特徴です。この疾患は加齢、肥満、関節の過度な使用、遺伝的要因(股関節形成不全、肘関節形成不全など)、外傷によって引き起こされることが多いです。

症状として、関節の硬直、痛み、跛行、活動の減少、関節の腫れが挙げられます。病気が進行すると関節が変形し、重度の痛みと動きの制限が生じることがあります。

診断は、臨床症状やX線検査などを基に行われます。治療の目的は痛みを管理し、関節の機能を維持することです。

治療方法には、体重管理、リハビリテーション、抗炎症薬の投与、関節保護サプリメントの投薬などを行います。内科的治療で疼痛の管理が困難な場合は、痛みを軽減するために手術を行うこともあります。当院ではリハビリテーション科と連携し、個別に治療プログラムを作成しています。

 

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