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腫瘍(がん)

犬の脾臓のできもの

脾臓について

腫瘍小林3

脾臓はお腹の左上側にある、血液に富んだ臓器です。

リンパ球などの白血球が存在し、感染症から体を守る免疫機能を担っています。

血液をためることができ、同時に古くなった血液細胞を排除して血液をきれいにしています。また、血液細胞が足りない状況では、血液を造ることもあります。

症状

脾臓にできものができても、動物自身が違和感を感じることはほとんどなく、健康診断などで偶然見つかることも多くあります。
しかし、脾臓は血液が豊富な臓器なので、できものが破裂した場合には大量出血が起きてしまいます。貧血や低血圧により、元気や食欲がなくなり、歯肉などの粘膜が白くなるなどのショック症状がみられます。
 

考えられる病気

脾臓にできるできものは、おおよそ70%が良性で、30%が悪性の腫瘍です(当院調査)。
良性のできものの中には、結節性過形成、血腫(脾臓内の出血)、髄外造血など、腫瘍でないものと、脂肪腫などの良性腫瘍が含まれます。手術によるできものの摘出で完治が可能です。
悪性腫瘍には主に血管肉腫、間質肉腫、リンパ腫、組織球性肉腫、脂肪肉腫などがあげられます。良性腫瘍よりも大きくなる速度が速く、進行すると肝臓、心臓、肺、リンパ節などに転移をすることがあり、長期の生存や完治が難しい傾向があります。
良性・悪性のどちらのできものも大きくなるにつれて破裂をすることがあります。良性のできものでも破裂すると生死に関わる状態に陥ります。
できものの確定診断は、できものを手術で摘出し、病理組織検査をすることで行います。現時点では、術前の検査で良性、悪性を判断することは非常に難しいとされています。
 

検査・診断

検査でできものの状態や転移の有無を把握し、治療方針を検討していきます。
 

治療方針について

できものが破裂をしている場合

手術によりできものを摘出し、出血を止めることが第一となります。脾臓ごと摘出をします。
重度の貧血やショック状態で麻酔のリスクが高い場合には、輸血や点滴などを行い、状態を整えてから手術を行います。
 

できものが破裂をしていない場合

大きさや、大きくなる速度に応じて治療方針を決めていきます。
大きさが小さな場合にはすぐには手術をせずに、定期検査にて経過をみていくことがあります。
大きさが大きな場合や大きくなる傾向がある場合には、破裂をする可能性や悪性腫瘍である可能性が高まるため、手術を検討します。
 
できものの大きさ 治療方針
~1cm  1-2ヶ月ごとの定期検査 
1~2cm  摘出手術をご相談 
2cm~  摘出手術を積極的に検討 
 
 
※犬と猫において脾臓は全部摘出してもその後の生活に全くと言っていいほど影響を及ぼさない唯一の内臓です。脾臓全摘出後に脾臓の行っていた仕事は、肝臓やリンパ節などが代わりに行ってくれる事がわかっています。
 
 

猫の口腔内扁平上皮癌

口腔内扁平上皮癌について

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扁平上皮癌とはその名の通り、扁平上皮細胞ががん化(制限なく増殖する様)する腫瘍であり、扁平上皮細胞が存在する場所(皮膚や肺、消化管など)であればどこにでも発生します。
猫の口腔腫瘍は90%が悪性腫瘍であり、そのうちの6〜7割が扁平上皮癌であると報告されています。口腔内のどこにでも発生し(舌、歯肉、口腔粘膜、口唇、扁桃など)、見た目はしこり状のものができたり、しこりを形成せずに潰瘍として認められる場合もあります。
症状としては、食欲不振、活動性の低下、体重減少、グルーミングの低下、流涎、口臭などが認められます。中には顎の骨を溶かし、顎骨の病的骨折を引き起こすこともあります。
この腫瘍の特徴として、転移は比較的少ないとされています(主な転移先として付近のリンパ節、まれに肺)が、局所における浸潤性が非常に強く(根が深い)、再発率が非常に高いです。

検査・診断

診断は、針吸引検査(細胞診)や組織生検などにより行います。
また治療計画を立てる上で、全身状態の把握や腫瘍の浸潤度や転移の有無、その他の病気にかかってしまっていないかなどの確認のため、各種検査を実施する必要があります。

治療方針について

腫瘍の特徴として、転移は比較的少ないとされています(主な転移先として付近のリンパ節、まれに肺)が、局所における浸潤性が非常に強く(根が深い)、再発率が非常に高いです。そのため、基本的には手術が第一選択となりますが、術後に追加治療として放射線治療や抗がん治療の実施が推奨されます。

手術

目にみえている腫瘤は小さくても、そこから目に見えない腫瘍の根っこが伸びています。この根っこまで手術で全部摘出しなければ、再発を起こしてしまします。そのため目にみえている腫瘍とその周りを含めて可能な限り大きく手術で切除する必要があります。
術後は一時的に口からごはんを食べられなくなるため、手術と同時に栄養チューブ(胃瘻チューブ、食道チューブ)を設置します。術部が落ち着き、自発的にご飯が食べられるようになったら、栄養チューブの抜去をします。

放射線治療

腫瘍に放射線をあてて腫瘍細胞にダメージを与える方法です。手術だけでは腫瘍細胞をとりきれない場合に手術と併用したり、手術が不適応な場合に緩和的に使用したりします。単独では完治が目指せる治療法ではありません。

抗がん治療

抗がん剤を使用して腫瘍細胞にダメージを与える方法です。転移がある場合、手術で腫瘍を取り切れなかった場合、再発の危険が高い場合などに術後の補助治療として行います。

猫の乳腺腫瘍

乳腺腫瘍について

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猫の乳腺は左右に4つずつ存在しています。
乳腺ががん化してしまったものが乳腺腫瘍です。
猫の場合は80 ~ 90%は悪性と言われており、積極的な治療が必要となります。
特徴としては、乳腺のしこりがみられます。
腫れる数もさまざまで1−2カ所だけの場合もあれば、数珠状に数多く連なって腫れる場合があります。
また乳頭から黄〜褐色の液体が出ることもあります。

検査・診断

ほかの癌との区別を行うために、最初に針吸引検査を行います。はっきりとした診断をするには手術で切り取った乳腺を詳しく調べる検査(病理組織検査)が必要となります。また転移を起こしているかどうか、麻酔や手術が可能か、ほかに病気がないかどうかを調べるために検査を行います。

治療方針について

猫の乳腺腫瘍は悪性である場合が多いため、治癒をめざすためには手術や抗がん剤治療などの積極的な治療が必要です。
手術では広い範囲の乳腺を取り除く必要があり、手術後には再発や転移を防ぐ目的で抗がん治療の実施も検討します。しかし、それでも再発や転移を起してしまう場合があります。すでに転移を起こしている場合など、手術が適応にならない場合には、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする対症治療治療や放射線治療が中心となります。
治療効果としては以下の表のように言われています。
 
腫瘍の大きさ 生存中央値
≦ 2cm 3年以上
2 ~ 3cm 15〜24ヶ月
≧ 3cm 4〜12ヶ月
肺転移がある 2ヶ月未満
  
  
 
  
  
 

膀胱移行上皮癌

移行上皮癌について

“移行上皮”という粘膜の細胞ががんになったもので、悪性度が高いがんのひとつです。主に膀胱に発生しますが、尿道や前立腺など、ほかの部位に発生することもあります。
10歳前後の高齢で発生することが多く、雄よりも雌にやや多くみられます。
悪性度が高く、病気の進行も早いことが多いです。がんの周囲への広がりが強く(浸潤性)、また全身にがんが広がること(転移)も多いため、治療が難しい場合が多いです。膀胱の出口や尿管との接続部に発生することが多いため、病気の進行により尿が出せなくなることも問題となります。
 

検査・診断

腫瘍小林2

膀胱のできものの診断は一般的にカテーテル生検法というもので行なわれます。

全身状態や腫瘍の広がりを確認するための各種検査も行い、手術を前提とする場合にはCT検査などを行うこともあります。

治療方針について

病気の状態に合わせて、以下のような治療方針を考えます。

完治を目指す治療

手術によるがんの摘出と、手術後の抗がん治療を行い、最大限にがんと戦う治療方針です。手術の合併症や抗がん剤の副作用などが問題となります。

病気の進行を抑える治療

抗がん剤や消炎剤を用いて、がんの進行を抑える目的の治療を行います。

病気による症状を改善するための治療

膀胱腫瘍による大きな問題のひとつに“尿が出なくなること”があります。尿が出なくなると腎不全に陥るため、短い期間で命の危険が生じます。尿が出なくなる原因はいくつかに分かれますが、それぞれカテーテルを入れたり、手術を行ったりして、尿が出せるような処置が必要になります。
また、病気の進行によって生じた様々な症状に対しても、それらを緩和するための治療を行います。
 

鼻腔内腺癌

鼻腔内腺癌について

鼻の中の腫瘍は、見た目では発見しづらいことが多いため、初期に見つけることが難しい腫瘍です。腫瘍が大きくなってくると、鼻水、鼻づまり、いびき、くしゃみ、鼻血などが出てきます。また、腫瘍がどんどん大きくなり、周りの組織に広がることがあり、顔面の変形、眼球の突出が出て初めて気付くこともあります。鼻は脳にも接しているので、脳への広がりが見られた場合には、てんかん発作や行動異常などの神経症状が出ることがあります。老齢動物で発症が多く、鼻の長い長頭腫や中〜大型犬は比較的なりやすいと言われています。原因は、環境汚染や受動喫煙と関連があるという推測はされていますが、はっきりとはわかっていません。
 

検査・診断

鼻腔内腫瘍と類似した症状は、鼻腔内腫瘍の他に、真菌性鼻炎、アレルギー性鼻炎、歯周病、異物などでも出てきます。どの病気かを調べるにはCT検査、組織生検が必要なことが殆どです。
 

治療方針について

鼻腔内腫瘍は殆どが悪性で、転移は比較的少ないですが、完治が難しい腫瘍です。手術で摘出するのは難しく、放射線治療が基本となります。
積極的な治療を行った場合の中央生存期間は8〜25ヶ月、無治療の場合は3〜6ヶ月以内という報告があります。
 

放射線治療(根治的:完治を期待して行う治療)

 腫瘍に放射線を当てて腫瘍細胞にダメージを与える方法です。実施する場合には専門施設をご紹介します。

放射線治療(緩和的:完治を目指さず、症状を和らげる目的で行う治療)

 上記と同じ治療ですが、週一回の治療になります。

対症治療

 消炎剤などの対症治療を行います。

犬の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)

口腔内悪性黒色腫について

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悪性黒色腫は、メラニン色素を作る細胞が腫瘍化したもので、犬の口の中に出来るがんの中で最も多いがんです。
しこりが小さいうちは気づかれにくく、大きくなってくると、口臭や口からの出血、ご飯が食べづらいなどの症状が認められます。
悪性度が高く、近くのリンパ節や肺、肝臓などに転移を起こしやすいです。
また、局所浸潤性が強い(根が深い)ため、顎の骨が溶けてしまうこともあります。そのため、進行すると、痛みが強くなり、食事が採れず、生活の質が低下します。
 

検査・診断

悪性黒色腫の診断は、細胞の検査(針吸引検査)や、生検により行います。また、転移を起こしているかどうか調べるために、近くのリンパ節の針吸引検査やCT検査を行います。
 

治療方針について

基本的には手術が第一選択となりますが、多くの場合完治は期待できず、数ヶ月で再発や転移を起こすことがほとんどです(進行度や悪性度が低い場合、稀に完治することがあります)。しかし、口の中のできものは、大きくなると顔の形が変形したり、痛みが強くなりご飯が食べられなくなるため、生活の質を改善するためにも手術が推奨されます。抗がん剤は、術後の補助治療として実施する場合がありますが、単独での効果は期待できません。手術が難しい場合や手術で取りきれない場合には、放射線治療を行う場合があります。

手術

悪性黒色腫は、局所浸潤性が強い(根が深い)ため、目に見えているしこりのみを取っても、根っこが残ってしまい、再発をおこしてしまいます。そのため、目に見えているしこりと、そのまわりを含めて大きく手術で切除する必要があります。口の中にできたしこりの場合は、基本的には顎の骨を含めた切除が必要となります。術後は一時的に口から食事が採れなくなるため、栄養チューブ(食道チューブあるいは胃瘻チューブ)を設置します。下顎を切除した場合には、よだれが出やすくなり、一日数回顎の下を拭いてあげる必要があります。また、術後にある程度の外貌変化が生じます。

放射線治療

腫瘍に放射線をあてて腫瘍細胞にダメージを与える治療方法です。手術だけでは腫瘍をとりきれない場合に手術と併用したり、手術ができない場合に緩和的に行うことがありますが、単独で完治を目指せる治療法ではありません。実施する場合には専門施設をご紹介します。

抗がん治療

抗がん剤を使って腫瘍細胞にダメージを与える治療方法です。転移がある場合、手術で腫瘍を取り切れなかった場合、再発の危険が高い場合などに術後の補助治療として行います。
カルボプラチン
 明らかな転移が認められない場合に使用します。再発や転移を抑制し、延命を期待します。3週間に1回、点滴により投与します。
 副作用:骨髄抑制、消化器症状(嘔吐、下痢、食欲低下)など
トセラニブ
 すでに明らかな転移がある場合に使用します。転移を小さくしたり、進行を遅らせることを期待します。2日に1回、ご自宅で内服薬を飲ませていただきます。
 副作用:消化器症状(嘔吐、下痢、食欲低下)、骨髄抑制、毛の色の変化、筋肉痛など
 

メラノーマワクチン(Oncept®)

犬の悪性黒色腫の治療薬として開発されたワクチン製剤で、手術で病変を切除後に転移を抑制する治療方法です。
欧米では広く用いられている新しい治療方法であり、既存の抗がん剤と比較して同等の効果が期待でき、副作用が非常に少ない治療方法です。
2週間毎に4回、専用の器具を用いて筋肉内注射で投与します。その後6ヶ月毎に接種することでより効果を高めることが期待できます。
 

犬のリンパ腫

犬の体表リンパ節

犬の体表リンパ節

リンパ球

リンパ球は免疫反応に関与している細胞で、体内への細菌やウイルス等の侵入などを阻止しています。
体の中のいろいろなところに分布しており、リンパ節というリンパ球が集まった組織も形成しています。
リンパ球には複数の種類(T細胞型・B細胞型・それ以外)があり、それぞれ異なった役割を担っています。

 リンパ腫

体の中のリンパ球が腫瘍(がん)になってしまったものがリンパ腫です。6~8歳くらいの中高齢に多く発症します。

特徴

リンパ球はもともと全身に分布しており、リンパ腫も全身様々なところに発生します。
発生した場所によっておこる症状が異なり、また、治療への反応や経過が異なることが分かっています。
犬にできるリンパ腫の約80%が体のリンパ節の複数が腫れる多中心型と呼ばれるものです。
皮膚の下にあるリンパ節の腫れに気付いて、ご家族が動物病院を受診されるケースが多いです。
のどにあるリンパ節が腫れると呼吸がしずらくなったり、いびきをかくようになります。
進行すると、肝臓や脾臓・骨髄内へ入り込んでしまい、本来の機能を低下させてしまいます。
無治療の場合の平均余命は1~2ヵ月とされています。

また、肝臓や腸・皮膚・腎臓・胸の中などにリンパ腫が出来る場合もあります。

発生した場所による分類

発生した場所 割合 良く認められる症状
多中心型 80% 身体のしこり
呼吸困難・いびき
元気消失・食欲低下
消化器型(腸にできる) 5~7% 嘔吐・下痢
縦隔型(胸の中にできる) 5% 呼吸困難・食べ物が飲み込みずらい
皮膚型 5%以下 皮膚炎のような症状
その他 5%以下  

さらに細胞の分化度(成長度合い)によって悪性度の高い低分化型と、比較的悪性度の低い高分化型に分けられます。

検査・診断

リンパ腫の診断は細胞の検査(針吸引検査)でわかります。どこまで病変が広がっているかどうか調べるために肝臓、脾臓などの針吸引検査や骨髄検査を行います。また、他に病気がないかどうかを調べるために色々な検査を行います。

血液検査 貧血の有無や内臓の状態などを調べる
血液凝固系検査 きちんと血が止まるかなどを調べる
レントゲン検査(胸腹部) 胸やお腹にリンパ腫の広がりや他の病気がないか調べる
超音波検査(心臓・腹部)
尿検査 腎臓の状態などを調べる
肝臓・脾臓針吸引検査 肝臓、脾臓に転移が無いか調べる
骨髄検査 ※麻酔 骨髄に転移が無いか調べる
クローナリティ検査 リンパ腫のタイプを調べる
  • 骨髄検査は麻酔あるいは軽い鎮静処置が必要です。
    肝臓、脾臓の細胞の検査は無麻酔でも可能ですが、状況によって鎮静をかけて行う場合があります。
  • 遺伝子検査は針吸引検査で採取したもので行います。

治療

 リンパ腫は全身性の病気であり、抗がん剤で治療します。
抗がん剤に非常によく反応してくれることが分かっており、約80%の症例で効果があります。
抗がん治療を行った場合、約半数の犬が1年後も生存しており、約20%の犬が2年後も生存しています。
様々な抗がん剤といくつかの決められたスケジュールがあり、リンパ腫のタイプによって選択します。抗がん剤の副作用として胃腸障害(嘔吐・下痢)、骨髄抑制(免疫力の低下)、脱毛が挙げられます。
出るかどうかは個体差によって左右されることも多いですが、適切なケアを行う事で副作用は最小限に抑える事が可能です。
副作用のために入院が必要となるケースはおおよそ10%以下です。
リンパ腫が抑え込めてスケジュールが終了すれば治療をストップして経過観察をする場合もあります。
再発した場合、再度抗がん治療を開始します

治療によるリンパ節の大きさの推移

猫のリンパ腫

リンパ球

リンパ球は免疫反応に関与している細胞で、体内への細菌やウイルス等の侵入などを阻止しています。
体の中のいろいろなところに分布しており、リンパ節というリンパ球が集まった組織も形成しています。
リンパ球には複数の種類(T細胞型・B細胞型・それ以外)があり、それぞれ異なった役割を担っています。

リンパ腫

体の中のリンパ球が腫瘍(がん)になってしまったものがリンパ腫です。
高齢の猫で発生することが多いですが、猫白血病ウイルスに感染していると若齢でも発生します。
ウイルスに感染している場合1~3歳で発症し、感染していない場合は8~10歳に多く発症します。

特徴

リンパ球はもともと全身に分布しており、リンパ腫も全身様々なところ(肝臓や腸・皮膚・腎臓・胸の中など)に発生します。
発生した場所によっておこる症状が異なり、また、治療への反応や経過が異なることが分かっています。
進行すると、肝臓や脾臓・骨髄内へ入り込んでしまい、本来の機能を低下させてしまいます。
無治療の場合の平均余命は1~2ヵ月とされています。

発生した場所による分類

発生した場所 割合 良く認められる症状
消化器型(腸にできる) 43% 嘔吐・下痢
鼻腔内(鼻の中にできる) 6.3% 鼻づまり・鼻血・呼吸困難
縦隔型(胸の中にできる) 5.7% 呼吸困難・食べ物が飲み込みずらい
皮膚型 5%以下 皮膚炎のような症状
その他(腎臓・脳など) 5%以下  
  • 猫白血病ウイルスに感染していると縦隔型の発生が多く認められます。
  • さらに細胞の分化度(成長度合い)によって悪性度の高い低分化型と、比較的悪性度の低い高分化型に分けられます。

検査・診断

リンパ腫の診断は細胞の検査(針吸引検査)でわかります。
どこまで病変が広がっているかどうか調べるために肝臓、脾臓などの針吸引検査や骨髄検査を行います。
また、他に病気がないかどうかを調べるために色々な検査を行います。

血液検査 貧血の有無や内臓の状態などを調べる
血液凝固系検査 きちんと血が止まるかなどを調べる
レントゲン検査(胸腹部) 胸やお腹にリンパ腫の広がりや他の病気がないか調べる
超音波検査(心臓・腹部)
尿検査 腎臓の状態などを調べる
肝臓・脾臓針吸引検査 肝臓、脾臓に転移が無いか調べる
骨髄検査 ※麻酔 骨髄に転移が無いか調べる
クローナリティ検査 リンパ腫のタイプを調べる
  • 骨髄検査は麻酔あるいは軽い鎮静処置が必要です。肝臓、脾臓の細胞の検査は無麻酔でも可能ですが、状況によって鎮静をかけて行う場合があります。
  • ・遺伝子検査は針吸引検査で採取したもので行います。

治療

リンパ腫は全身性の病気であり、抗がん剤で治療します。
抗がん剤に非常によく反応してくれることが分かっており、約60%の症例で効果があります。
治療を行った場合の平均余命は6~9カ月程度であり、1年を越せる確率は20%程度と報告されています。
さらに、猫白血病ウイルスに感染していると治療効果・余命が短い事がわかっています。
抗がん剤の副作用として胃腸障害(嘔吐・下痢)、骨髄抑制(免疫力の低下)、脱毛が挙げられます。
出るかどうかは個体差によって左右されることも多いですが、適切なケアを行う事で副作用は最小限に抑える事が可能です。
副作用のために入院が必要となるケースはおおよそ10%以下です。
リンパ腫が抑え込めてスケジュールが終了すれば治療をストップして経過観察をする場合もあります。
再発した場合、再度抗がん治療を開始します。

治療によるリンパ節の大きさの推移

犬の肥満細胞腫

肥満細胞とは

肥満細胞

肥満細胞はアレルギーや炎症などに関与している細胞で、体の中のいろいろなところにあります。
ヒスタミンやへパリンなど、様々な物質を含んでいます。体が太っている“肥満”とは全く関係ありません。

肥満細胞腫

体の中の肥満細胞が腫瘍(がん)になってしまったものが肥満細胞腫です。
皮膚にできることが多く、悪性の皮膚がんの中では最も多いものです。
その他、皮膚の下の方や粘膜、筋肉、内臓などにできることもあります。

特徴

皮膚にできる肥満細胞腫はいろいろな形をとります。
イボのようなものだったり、脂肪の塊のようだったり、皮膚炎のように赤くなったりすることもあります。
見た目から判断することはできません。また大きくなったり小さくなったりすることも多く、小さくなったからといって安心はできません。

肥満細胞腫は肥満細胞が本来持っているヒスタミンやへパリンなどの物質をたくさん放出してしまうことがあります。
そうなると皮膚が赤くなったり、胃腸に負担がかかって吐き気や下痢がでたり、血が止まりづらいといった症状を起こすことがあります。

悪性度が高いものは転移を起こすことがあります。
転移はリンパ節、肝臓、脾臓、骨髄などに起こりやすいです。

悪性度

犬の皮膚にできる肥満細胞腫は基本的にすべて悪性で、その悪性度が大きく3段階(グレード分類)に分けられます。
悪性度により必要な治療が変わってきますが、それ以外に転移を起こしていないかどうかなども重要です。
なお皮膚以外にできるものは悪性度の分類は行わず、通常は悪性度の高いものとして治療します。

悪性度は手術で摘出したものを検査に出すことで判明します。手術前には悪性度はわかりません。

  グレード1 グレード2 グレード3
悪性度 低い 高い 非常に高い
転移 起こしにくい 起こすことあり 起こしやすい
治療 通常手術のみ 手術
状況により抗がん治療や放射線治療も行う
手術+抗がん治療
状況により放射線治療も行う
再発 起こしにくい 起こしやすい 非常に起こしやすい
特徴 適確な手術により完治が見込める 適確な手術により完治が望める場合も多いが、一方で十分な治療を行っても再発や転移が進行してしまうことがある 非常に悪性度が高く、十分な治療を行っても完治が難しい場合が多い

検査・診断

肥満細胞腫の診断は細胞の検査(針吸引検査)でわかります。しかし悪性度まではわかりません。
また転移を起こしているかどうか調べるためにリンパ節、肝臓、脾臓の針吸引検査や骨髄検査を行います。
他にも麻酔や手術が可能か、他に病気がないかどうかを調べるために色々な検査を行います。

血液検査 貧血の有無や内臓の状態などを調べる
血液凝固系検査 きちんと血が止まるかなどを調べる
レントゲン検査(胸腹部) 胸やお腹に転移や他の病気がないか調べる
超音波検査(腹部)
尿検査 腎臓の状態などを調べる
ヒスタミン濃度検査 ヒスタミンが増えていないかを調べる
CT検査 ※麻酔 リンパ節を調べたり、手術計画をたてたりする
リンパ節針吸引検査 リンパ節に転移が無いか調べる
肝臓・脾臓針吸引検査 肝臓、脾臓に転移が無いか調べる
骨髄検査 ※麻酔 骨髄に転移が無いか調べる
遺伝子検査 肥満細胞腫のタイプを調べる
  • 骨髄検査は麻酔が必要なので、通常はCT検査の時や手術の時に同時に行います。
    リンパ節や肝臓、脾臓の細胞の検査も状況によってCT検査や手術の時に行う場合があります。
  • 遺伝子検査は手術で摘出したもので行います。

治療

軟部組織肉腫イメージ

治療で最も重要なものは手術です。
最初の手術でいかに肥満細胞腫をとりきるかが重要です。
すでに転移を起こしている場合や手術が難しい場合、悪性度が高い(グレード3)場合などには放射線治療や抗がん治療なども行います。

 1.手術

目にみえている(触って分かる)肥満細胞腫が小さくても、実はそこから目に見えない腫瘍の根っこが伸びています。
この根っこまで手術で全部とらないと、再発を起こしてしまします。
そのため目にみえている腫瘍とそのまわりを含めて大きく手術で切除する必要があり、大きな傷となります。

2.放射線治療

腫瘍に放射線をあてて腫瘍細胞にダメージを与える方法です。
手術だけでは肥満細胞腫をとりきれない場合に手術と併用したり、手術ができない場合に補助的に行うことがあります。
実施する場合には専門施設をご紹介します。

3.抗がん治療

抗がん剤を使って腫瘍細胞にダメージを与える方法です。
手術で肥満細胞腫をとりきれなかった場合や悪性度が高い場合(グレード3)、再発の危険が高い場合などに手術と併用します。
また手術が適応とならないような場合にも補助的に行うことがあります。

骨肉腫

犬の骨肉腫について

骨肉腫は犬に最も多く認められる骨のガンであり骨にできる腫瘍の 85 %を占めます。
治療としては強い痛みを抑えるために断脚が必要です。
しかし殆どの犬( 90 %以上)で初期の段階で目に見えないレベルで転移が始まっており、 断脚のみによる治療では平均で術後 3 ~ 4 ヶ月しか生存できません 。
したがって生存期間を改善するには全身的な抗がん治療が必要です。
抗がん治療を行った場合の平均生存期間は約 1 年~ 2 年と報告されています。

転移する場所は肺が最も多いとされていますが、他の骨、肝臓などのそのほかの内臓へ転移することも稀にあります。
転移病巣も早期に発見して切除することで延命が期待できるケースもあります。
しかし、残念なことに最終的には多くの犬が転移性の病変で 2 年以内に亡くなってしまうのが現状です。

抗がん治療に対する主な副作用は個体差がかなりありますが、投与後数日間の食欲不振、下痢、吐き気、発熱、骨髄抑制(貧血、白血球減少症、血小板減少症)、などです。
しかし犬は人間の抗がん治療で見られるような副作用は極めて稀で、無症状か軽い下痢程度のことが多いようです。
副作用のために入院が必要になる犬は 10 %以下です。

抗がん治療は決して簡単な治療ではなく、ご家族と病院スタッフと動物がひとつのチームになってがんと戦う覚悟が必要です。
骨肉腫を完全に克服することは非常に難しいことですが少しでも元気な状態で長く生存するためには抗がん治療が必要となります。

軟部組織肉腫

軟部組織肉腫は動物の悪性腫瘍(癌)の一つのグループで、線維肉腫、血管周皮腫、神経鞘腫、脂肪肉腫などいくつかの腫瘍が含まれます。
これらの腫瘍は共通した特徴を持っているので、“軟部組織肉腫”というくくりで診断され、治療が行われます。

特徴

軟部組織肉腫イメージ

高齢の犬に多く発生します。
胴体や足などの体の表面に発生することが多く「なにかしこりがある」と気付くことが多いのですが、体の中にできることもあります。
腫瘍自体は痛みなどを伴わないことが多いのですが、発生部位や大きさによってはまわりの器官に影響を与え、様々な症状が出ることがあります。

この腫瘍の特徴として腫瘍の“根”が深く(局所浸潤性が強い)、再発率が高いということがあります。
悪性の腫瘍からは目に見えない根が周囲に伸びています。
目に見える(触れる)しこりだけを手術で取っても、目に見えない(触ってもわからない)根が残ってしまうと再発してしまします。
軟部組織肉腫はこの根が深く広く伸びていることが知られています。

 また、悪性腫瘍の特徴に転移というものがあります。
転移とは腫瘍が他の部分(リンパ節や内臓など)にも移動して、進行してしまうことです。
転移を起こしてしまうと、手術でしこりをとっても腫瘍は治りません。
軟部組織肉腫は比較的転移が起こりにくいという特徴(悪性度によって異なる)を持っています。

軟部組織肉腫の特徴をまとめると、根が深く広いためそれを手術で全部取るのは大変(傷がとても大きくなる)ですが、転移が比較的起こりにくいため十分な手術ができれば完治することもめずらしくありません。

悪性度

軟部組織肉腫の悪性度はいくつかの要素から評価します。
その要素をもとに完治が見込めるかどうかどうか、再発や転移を起こしてしまうかどうか、といった治療経過の予測が行われます。

≪悪性度を評価する要素≫

1.腫瘍の大きさ 大きいもののほうが悪性度が高い傾向をとる
2.組織学的グレード 切り取った腫瘍の組織検査により悪性度が3段階に分けられる
3.周囲との固着 固くくっついているものは悪性度が高い傾向をとる
4.転移の有無 転移があると完治が難しい
5.手術内容 根も含めて完全にとりきらないと再発しやすい

検査・診断

1. 針吸引検査

しこりはまず針吸引検査による細胞の検査を行います。
軟部組織肉腫やその他の腫瘍の疑いがあるかどうかを調べます。
この検査だけで診断のつく腫瘍もありますが、軟部組織肉腫では十分な診断が得られない場合も多いです。
この検査で軟部組織肉腫が疑われた場合には 2 の生検という検査を行い、診断を確実なものとします。

2.生検・ステージング検査

手術前に十分な診断をつけるために生検という検査が必要です。
生検は手術によりしこりの一部をくりぬいて病理組織検査を行う方法です。
また転移がないかどうか、他に病気がないかどうかなどを調べる全身検査や、腫瘍の広がりを調べて手術計画を立てるためのCT検査なども行います(ステージング検査)。

血液検査 貧血の有無や内臓の状態などを調べる
血液凝固系検査 きちんと血が止まるかなどを調べる
レントゲン検査(胸腹部) 胸やお腹に転移や他の病気がないか調べる
超音波検査(腹部)
尿検査 腎臓の状態などを調べる
血圧測定 高血圧症などを調べる
CT検査 ※麻酔 細かい転移を調べる
腫瘍の広がりを調べ、手術計画を立てる
リンパ節針吸引検査 リンパ節に転移が無いか調べる
生検 ※麻酔 小手術でしこりの一部をくりぬいて調べる

3.手術後の確定診断

手術で摘出した腫瘍を病理組織検査にだします。
腫瘍全体を調べて最終的な確定診断を行い、手術で腫瘍が十分にとりきれているかなどを判定します。

治療

治療で最も重要なものは手術です。
最初の手術でいかに腫瘍をとりきるかが大切です。
すでに転移を起こしている場合、手術が難しい場合、悪性度が高い場合などに放射線治療や抗がん治療なども行います。

1.手術

目に見えない腫瘍の根も含めて大きく手術を行う必要があります。
そのため手術で切り取った部分の傷を塞ぐのが大変になる場合もあり、傷を閉じるための再手術が必要になったり、傷が治るのに長い時間がかかることもあります。

2.放射線治療

腫瘍に放射線をあてて腫瘍細胞にダメージを与える方法です。
手術の補助や、緩和的な治療として行うことがありますが、単独で完治を目指せる治療法ではありません。
実施する場合には専門施設をご紹介します。

3.抗がん治療

抗がん剤を使って腫瘍細胞にダメージを与える方法です。
手術の補助や、緩和的な治療として行うことがありますが、単独で完治を目指せる治療法ではありません。

犬の乳腺腫瘍

犬のお乳(乳腺)は左右5対あります。乳腺にしこりができたら乳腺腫瘍の疑いがあります。

犬の乳腺腫瘍

犬では発生が多く、ヒトの3倍なりやすいといわれています。
雌犬の腫瘍では発生が最も多いです。
高齢の雌、特に避妊手術をしていない場合に多く発生します。原因はホルモンの影響が大きいと考えられています。
良性と悪性の割合はほぼ50%で、多くの乳腺腫瘍は早い段階に手術を行うことで治すことができます。

良性(50%) 悪性(50%)
悪性度が低い(25%) 悪性度が高い(25%)

最初に行う検査 ―針吸引検査-

しこりに針を刺して細胞の検査を行います。乳腺腫瘍なのか、他のできものなのかどうかを調べます。乳腺腫瘍が疑われる場合には全身検査や手術を検討します。なお良性か悪性かの特定はできません。

犬の乳腺腫瘍

手術を行うかどうか?

手術は治療と同時に診断をつけるために行います。手術をしないと良性・悪性の診断がつかないことと、早期であれば多くが手術だけで治る(乳腺腫瘍の3/4)ことから、手術を行うことが推奨されます。

※ただし、以下の場合には手術を見合わせることがあります

  • 転移してしまっている場合(手術をしても治らない)
  • 他に悪いところがある(麻酔、手術の危険性が高い)
  • 炎症性乳癌

手術前検査

血液検査 全身状態の確認
血液凝固系検査 血がきちんと止まるか
レントゲン検査 転移や他の病気がないか
超音波検査
尿検査 腎臓に問題がないか
心電図 不整脈がないか
血圧測定 高血圧でないか
甲状腺ホルモン検査 ホルモン異常がないか
CT検査※ 小さな転移の検出

手術の方法

  しこりだけとる しこりの周囲の乳腺もとる 片側の乳腺をとる
手術方法 乳腺手術1 乳腺手術2 乳腺手術3 乳腺手術4
他の乳腺での再発  
手術の負担  
入院 3~5日 7日前後 7~14日
費用  
避妊手術について

高齢になってからの避妊手術は乳腺腫瘍の治療や再発予防には効果はありません。
ただし、乳腺腫瘍が発生するような高齢の雌では子宮や卵巣に異常をきたしているこが多く、避妊手術を行うことで卵巣・子宮の病気の予防・治療効果があります。
そのため、未避妊の場合には乳腺腫瘍の手術と同時に避妊手術をおすすめしています。

手術後は?

  • 傷が治れば普段通りの生活が送れます。まれに傷の治りが悪いことがあり、その場合通院が必要です。
  • 摘出したものの検査結果によっては抗がん治療を行う場合もあります。
  • 数ヵ月毎の定期検査(血液検査、レントゲン、超音波検査など)が推奨されます。

肛門嚢アポクリン腺癌

肛門嚢アポクリン腺癌について

肛門嚢アポクリン腺癌とは肛門の横にある肛門嚢(におい袋)のがんです。原因はわかっていませんが雌犬に多く発生します。

治療法としては、まず第 1 に外科的にがんを可能な限り摘出することと、術後の抗がん治療です。
状況により放射線治療を検討する場合もあります。
しかし、この癌は非常に悪性度が強くどんな治療方法を行っても完治は難しいとされています。
手術を行った場合の局所再発率は 50 %、余命は平均で 1 年という統計学的データーが出ています。
また、この癌の特徴として 50 %~ 90 %のワンちゃんで血液中のカルシウム濃度が異常に高くなります。
このことにより腎臓が悪くなり、命を脅かすことも少なくありません。

治療方針

手術を行い可能な限りしこりを切除します。病理検査の結果次第で抗がん治療を検討します。

肛門嚢アポクリン腺癌1
肛門嚢アポクリン腺癌2

 

肝細胞癌

肝細胞癌について

犬の肝細胞癌は肝臓に出来る癌で最も多い事がわかっています。
食欲不振、体重減少、嘔吐、水をたくさん飲むなど、色々な症状を示します。

治療方針について

肝細胞癌1

現在の獣医学では、外科手術が第 1 選択の治療方法です。
有効な内科療法(抗がん治療など)は見つかっていません。
腫瘍が完全に切除できるかどうかが治療成績に大きくかかわってきます。
一般に肝臓の左側に発生したものは切除しやすく、右側のものは手術の危険性が高いと言われています。
手術で完全切除できれば再発率は 0 ~ 13 %、転移率は 0 ~ 37 %であり、平均の生存期間は 1 ~ 4 年以上にも及びます。

1.外科手術

腫瘍の完全切除を目指します。
また、完全切除が不可能な場合でも、腫瘍をある程度切除することで延命と今後の生活の質の向上を目指します。

利点 完全切除できた場合、完治する可能性も期待できる。
 完全切除できない場合でも、ある程度切除することで、他の臓器への圧迫や、巻き込みを遅らせ、生活の質の向上と延命効果(数年)が期待できる。
欠点 麻酔、手術の危険性(手術中、手術直後に死亡の危険性もある)切除不可能である場合も考えられる。

2.対症治療

将来的に多臓器への圧迫や転移により、下痢、嘔吐、食欲不振などの症状が悪化してくる事が予想されます。
治療内容としては、内服薬、点滴、注射などによって、ある程度、痛みや不快感をとってあげる、というようなものになります。

利点 麻酔、手術で命を落とすことはない。
欠点 臨床症状を回復することは期待できない。
肝細胞癌2
肝細胞癌3

 

組織球性肉腫

組織球性肉腫(悪性組織球症とは)

組織球性肉腫はバーニーズ・マウンテン・ドック、ゴールデン・レトリバー、フラット・コーテッド・レトリバー、ロットワイラーに発症の多い癌の一種です。
癌の中でも極めて悪性度が高く急速に全身へ転移し、死亡する事が知られています。
今までは有効な治療法はないとされていましたが、 2003 年のアメリカの癌学会で効果のある抗がん剤が報告されました。
その後、日本でも抗がん治療が積極的に行われるようになり、約 50 %の犬で抗がん剤の効果が見られる事がわかってきています。
また、以前は診断後、数日~ 6 ヶ月でほぼ全ての犬が亡くなってしまうといわれていましたが、近年では早期発見例で抗がん剤が効けば延命が可能な例も報告されています。

治療方針について

1. 延命を目標において抗がん治療を行う。

抗がん剤の副作用

  1.  好中球減少症
  2.  血小板減少症
  3.  食欲の低下(まれ)
  4.  消化器症状(極めてまれ)
  5.  肝障害(時々)
  6.  経過観察を行い、転移の徴候が見られた時点で抗がん治療を検討

 ※全身に転移が見られた後の抗がん治療では通常延命が可能な期間は 3 ヶ月です。

2. 抗がん治療は行わず、症状にあわせて緩和治療(痛み止め、咳止めなど)を行う。

※一般的には数ヶ月以内(通常は 6 ヶ月以内)に肺、肝臓、脾臓、骨髄、リンパ節、脳、骨、関節など全身に転移を起こし死亡します。

※抗がん治療は決して簡単な治療ではなく、我々病院スタッフとご家族、動物がチームとなって癌と戦っていく治療となります。例え抗がん治療を行っても完治は難しい病気であり、可能性にかける治療となります。

組織球性肉腫1
組織球性肉腫2