2023年5月
リンパ節のお話
こんにちは。腫瘍科の前田です。
早速ですが、私たち獣医師は、動物たちの健康状態を把握するためにいろんなところを視たり、触ったりします。
目(結膜の色、できものの有無)、口の中(歯肉の色、歯周炎の程度、粘膜の乾き具合、できものの有無..)耳の中(外耳炎やできものの有無..)、体表(栄養状態、水和状態、紫斑や紅斑など色調の変化、できものの有無..)、腹腔内(正常臓器の確認、異物や宿便、できものの有無..)、乳腺(できものの有無..)、精巣(正常な位置にあるか、左右の差やできものの有無)、肛門周囲(炎症や肛門嚢の貯留、できものの有無..)、ありとあらゆる所を覗いて、触っていきます。
そして今回のテーマとなる「リンパ節」ももちろん触っていきます。
病気の状態によってはそのサイズを測定し治療効果の判定に用いることもあります。
ところで、「リンパ節」とは何でしょうか。。
「リンパ節とは…リンパ管の所々にある粟粒大や大豆大の小器官。網状に結束した構造をもち、リンパ球やマクロファージなどが充満しており、リンパ中の異物・病原菌・毒素などを捕食したり免疫応答を行ったりして生体を防御するもの。」
簡単に言うと、体表に近いところ(体表リンパ節)や胸の中(胸腔内)、お腹の中(腹腔内)のあらゆるところにある小さな構造物です。
正常時の大きさは部位によっても異なりますが、粟粒くらいのものから、大豆くらいのものなど様々です。
リンパ節は、言うなれば“免疫の関所”として細菌、ウイルスなどの侵入者や異常な細胞(がん細胞)をせき止めて免疫細胞が排除しようと闘ってくれる場所です。
がんを患う患者さんでは、病変の近くにあるリンパ節に転移を生じることが多いです。
ですので、まずはじめの診断時にはリンパ節の腫れの有無を評価しそこに転移を生じていないか確認します。
必要であれば細い針を刺して少量の細胞を採取して細胞診を実施します。治療後、定期検診の際にはそれらリンパ節が腫れてきていないか、その硬さが変わってきていないか、等に注意して経過を見ることとなります。
例えば、左右差のあるリンパ節、いつもより硬くなったり可動性(触って動かせるかどうか)が少なくなっているリンパ節。
これらは要注意です。
一度がんを患ってしまった動物達は、積極的な治療により根治できる場合もありますが、治療後も再発や転移が生じてこないかどうかは定期検診により注意深く経過を見る必要があります。
病気の種類、病状によってその頻度は様々ですが、1-2ヵ月毎の検診間隔となる場合が多いです。
胸の中やお腹の中のリンパ節や臓器をメインに評価していく場合はレントゲンやエコー検査など院内で実施する検査でなければ判断が難しいです。
一方で、がんの種類によっては体表のリンパ節に異常が出やすい場合があるため、日頃から意識して触って頂くことで早期に異常に気づくことができるかもしれません。
特に、ワンちゃんの多中心型リンパ腫では、全身の体表リンパ節が顕著に腫大します。
抗がん剤による治療で腫れたリンパ節は縮小していきますが、治療中あるいは治療プロトコール終了後に“再燃”した場合、再びこのリンパ節が腫れてきてしまいます。
再燃した場合は、投与プロトコール自体を変更したり、治療終了していた子では抗がん剤を再開して再びがんと闘っていくこととなります。
がん細胞が少ない状態で治療を始めることが望ましいため出来るだけ早く異常に気づく必要があります。
リンパ節の触診には少しコツが必要ですが慣れれば獣医師でなくても容易に実施可能です。
動物の体表リンパ節は、頭から尾の方向へ向かって、主に「下顎リンパ節」、「浅頚リンパ節」、「腋窩リンパ節」、「鼠径リンパ節」、「膝窩リンパ節」などがあります。
どのリンパ節も異常に腫大した場合は簡単に触知可能ですが正常〜軽度の腫大くらいでは触知できないものもあります。
この中で下顎リンパ節、膝窩リンパ節については腫大していない場合も少し慣れれば触知可能です。
浅頚リンパ節については少しわかりにくいかもしれませんが、腫れたものは触知可能かと思います。
リンパ節にはリンパ管を通じてリンパ液が流れ込みますが大体のリンパ液の流れは以下の図のようになります。図の中で、②が下顎リンパ節、③が浅頚リンパ節、⑥が膝窩リンパ節です。
(リンパ液の流れ、「Veterinary Oncology vol5 No.4 2018 より引用」)
実際に触診している様子を示します。
下顎リンパ節。顔面静脈という血管の側にあります。下顎の骨の後ろ辺りに位置しています。
浅頚リンパ節。上腕頭筋、肩甲横突筋の内側にあるので筋肉の内側を探るように触ります。
膝窩リンパ節。膝の裏の脂肪組織の中に位置します。
内股にある鼠径リンパ節(⑤)や、脇にある腋窩リンパ節(④)については、明らかな腫大が見られないか、その領域を触って確認します。ただし、これらリンパ節は重度に腫れない限り触知することが困難だったり、周囲脂肪組織との区別が難しいため必要に応じてエコー検査で評価します。
体表リンパ節は、ご自宅でスキンシップを取る際に少し意識して頂ければ何となーく分かってくるかと思います。
はじめはどれがリンパ節なのかはっきりと分からなくても、腫れてきた際には「あれ、いつもと違って何か丸いものが触れるかも。。」と早い段階で異常に気づくことができるかもしれません。
病院での検診も大事ですが、ご自宅においても今回のようなリンパ節セルフチェックを実施して頂き治療に結びつけていければ、と思います。
実際にどうやって触ればいいのか、気になる方は診察の際に仰って頂ければアドバイスさせて頂きますのでお気軽にお声掛け下さい。
がん(悪性腫瘍)は非常に手強くて、厄介なものです。
治療には時に大きな負担を伴い、頑張って治療を乗り切った後も再発や転移といった見えない不安がつきまとうものです。
少しでもその不安を緩和する手助けができれば、と思いつつ日々診療に当たらせて頂きたいと思います。
腫瘍科 前田
過ごしやすい季節になってきました
こんにちは、動物ケアスタッフの網干です。
暖かい日が続き、過ごしやすい季節になってきましたね。
今の時期はまだ気持ちのいい暖かさですが、これから少しずつ気温が上がっていくと気になるのが熱中症です。
私の家では2歳の黒柴(シャス夕)を飼っているのですが、私が暖かくていい気温だなぁと思っている日でもシャスタは暑そうにハァハァとパンティングしていることがあります。
犬種にもよりますが、柴犬はダブルコートなので今の気温でも暑く感じるようです。
なので最近は冬毛で熱がこもらないようによくブラッシングをしたり、お風呂に入れたりして冬毛から夏毛に変えるお手伝いをしています。
あとは毛色が黒く日光の光を集めやすいので通気性の良い服を着せたり、お散歩中もこまめにお水をすすめるなど少しずつ熱中症対策を始めています。
これから梅雨や暑い夏がくる前にまだ気候のいいお出かけ日和が続くかと思いますが、少しわんちゃんの様子を気にかけてあげると良いかもしれませんね!
木陰で休憩中のシャスタ
寒暖差の激しい日が続きますね。
こんにちは。受付の築地です。
今年の春は寒暖差の激しい日が続きますね。
早朝や夕暮れの時間帯は、少しひんやりとした空気が心地よく感じます。
愛犬共々、本格的な暑さに向けて身体を調整中です。
散歩をしていると色々な方に声をかけていただけるのですが、たまに「子犬ですか?」と訊かれます。
犬種にしては小ぶりで童顔(?)な愛犬はあと少しで10歳になります。
最近は、ちょっとした不調で色々と心配になってしまいます。
過度な接触があまり好きでは無い性格なのですが、ブラッシングの時などに全身くまなく触って異常がないかチェックしています。
こんな所に出来物があったかな?
これくらいなら大丈夫かな?
と思いつつも何となく不安になるので、
積極的に獣医師に相談をしたり、ペットドックなどの検査を受けるようなりました。
幸いにも元気に過ごせていますが、定期的なチェックは続けていきたいと思っています。
皆さまも、大事なパートナーの僅かな変化を見逃さないように、毎日のスキンシップを大切にしてください。
気になることやご不安なことがありましたら、担当獣医師やお電話などでご相談ください!
超音波検査時の「毛刈り」について
みなさん、こんにちは。
画像診断科の石川雄大です。
当院で超音波検査を受ける場合には、「毛刈りが必要」と担当獣医師よりご説明があるかと思います。
見た目の問題や、お腹が冷えてかわいそう、他の病院では毛刈りをしないで診てくれた など様々な理由でお腹の毛刈りに抵抗感を感じられたり、渋々ご了承いただくケースも多いかと思います。
それにも関わらず、日頃よりほぼ全ての飼い主様が毛刈りに対してご同意くださり、検査にご協力頂けることにこの場を借りて感謝申し上げます。
今回はそんな飼い主様に少しでもご納得頂いて検査を受けて頂けるよう、超音波検査と毛刈りの重要性に関してお話したいと思います。
まず超音波検査の原理を簡単にご説明します。
超音波とは目に見えない、耳で聞こえない音波を指しますが、機器のプローブより連続的に発せられています。
しかしただ発生するだけでは画像は得られず、臓器にあたり反射した音波を受け取ることで画像化しています。
(嚙砕いたつもりでも難しくてすみません・・・)
つまり、しっかりとした画像の情報を取得するためには
①生体内にしっかりと音波が届くこと(往路)
②反射した音波をしっかりと受け取れること(復路)
この往復において超音波の情報がより多く、質が高いことが非常に重要となります。
では改めて、毛刈りがどうして必要なのか?
被毛があることで、超音波プローブと皮膚との間に傷害物(毛、空気)やスペースができてしまいます。
これは、
往路では、生体内に届く音波が減少する
復路では、反射した音波を受け取る際にも傷害物によってその情報がさらに減弱する
ことを意味し、これでは情報量の多い正確な画像が得られません。時とし病変の見落としや誤解釈に繋がりかねない状況と言えます。
つまり正確な画像を得るためには プローブと皮膚をしっかりと密着させることが重要であり、動物の場合には、このためには毛刈りは欠かせない前処置となります。
普段検査を実施する際には毛刈りを行った上でアルコールスプレーやゼリーを使うことでさらに細かな気泡や空間をなくし観察を行っています。
「質の高い画像を得る」ということは小さな病変や細かい変化を捉える上で非常に重要であり、早期発見や確実な診断に近づく第一歩となります。
実際に毛刈りを行わずに観察した画像と毛刈りを行った画像を見比べてみましょう
写真①
写②②
写真1は毛刈りを行わず超音波をあてた肝臓の画像です。
情報が減少し暗くザラザラした画像になっています。
残念ながらこの画像では臓器の色ムラや小さな変化は見つけることはできず、“大きな病変は”なさそうですとしか言えません。
一方で写真2は毛刈りを行い超音波をあてた肝臓の画像です。写真1との違いは一目瞭然ですね。
いかがだったでしょうか?
とはいえバリカン負けで皮膚が赤くなってしまう敏感肌の子もいらっしゃいます。
れまでそのような経験がある方は遠慮なく担当医に申しつけください。
疑っている疾患や観察したい臓器、被毛の状況などで担当医と毛刈りの有無や範囲を相談させていただきます。
さいごに、
皆様それぞれ様々な悩み、症状を抱えられ、愛犬、愛猫もせっかく頑張って受ける検査ですので見落としや誤診があっては本末転倒です。
高度医療をお約束する専門医であるからこそ、常に高い精度と結果が求められていると感じております。
今後も日々妥協のない、質の高い医療を提供できるよう精進してまいります。
引き続き超音波検査の際には毛刈りに対するご理解とご協力をお願いいたします。
我が家でのお留守番
こんにちは 受付の矢野です。
GWはいかがお過ごしでしょうか?
ご旅行やご自宅でのんびり過ごすのも良いですね。
今回は我が家でのお留守番の仕方をご紹介します。
お家で自由に過ごしているペットも多いと思います。
我が家の2匹の猫は家に人がいない時はケージの中でお留守番をしてもらっています。
半日以上ケージの中で過ごすので窮屈では?と思われると思います。
確かに狭い空間で長時間過ごすのは窮屈だと思いますが、人の目がない状態での事故等は予防できます。
家の中でも動物にとっては危険なものも多いので、イタズラや誤飲等の事故は少なくありません。
TVやパソコンなどの電気ケーブルによる感電や巻き付き、ビニール袋や衣類、食品などの誤食、脱走、高所からの落下で怪我をする事が考えられます。
それらを防ぎ大切なペットを守るためにも我が家ではケージを使用しています。
猫は上下運動なので2段以上、犬は平行運動なので1段でも大丈夫です。
私は3段ケージが欲しかったのですが、お世話の容易性から2段ケージを使用しています。
ケージ内にはお水、ご飯、トイレ、爪研ぎ、ハンモックなど必要最小限のものを入れてます。
1匹につき1個のケージなのは単純に2匹の仲があまり良くないからというのもありますが、自分だけの絶対的領域を確保するためでもあります。
つまりケージの中は自分にとって安全な場所であると感じてもらえることが大切です。
イタズラをして注意していてもケージの中には入ったら注意しない、もう1匹の猫が入ろうとしたら止めるなど自分のテリトリーが脅かされない空間を作ってあげることで安心してもらいます。
最近では、地震等の災害も頻発しています。
仮に被災した場合はペットと逃げる事も考えなければいけません。
避難所では動物が苦手な方もいらっしゃるので自由にしておけずケージで保護することもあるでしょう。
そこで普段からケージで過ごすことに慣れておけば万が一の場合にも対応できますね。
少しでも興味を持ってくだされば幸いです。