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腫瘍科

リンパ節のお話

こんにちは。腫瘍科の前田です。

早速ですが、私たち獣医師は、動物たちの健康状態を把握するためにいろんなところを視たり、触ったりします。

目(結膜の色、できものの有無)、口の中(歯肉の色、歯周炎の程度、粘膜の乾き具合、できものの有無..)耳の中(外耳炎やできものの有無..)、体表(栄養状態、水和状態、紫斑や紅斑など色調の変化、できものの有無..)、腹腔内(正常臓器の確認、異物や宿便、できものの有無..)、乳腺(できものの有無..)、精巣(正常な位置にあるか、左右の差やできものの有無)、肛門周囲(炎症や肛門嚢の貯留、できものの有無..)、ありとあらゆる所を覗いて、触っていきます。

そして今回のテーマとなる「リンパ節」ももちろん触っていきます。

病気の状態によってはそのサイズを測定し治療効果の判定に用いることもあります。

ところで、「リンパ節」とは何でしょうか。。

「リンパ節とは…リンパ管の所々にある粟粒大や大豆大の小器官。網状に結束した構造をもち、リンパ球やマクロファージなどが充満しており、リンパ中の異物・病原菌・毒素などを捕食したり免疫応答を行ったりして生体を防御するもの。」

 簡単に言うと、体表に近いところ(体表リンパ節)や胸の中(胸腔内)、お腹の中(腹腔内)のあらゆるところにある小さな構造物です。

正常時の大きさは部位によっても異なりますが、粟粒くらいのものから、大豆くらいのものなど様々です。

リンパ節は、言うなれば“免疫の関所”として細菌、ウイルスなどの侵入者や異常な細胞(がん細胞)をせき止めて免疫細胞が排除しようと闘ってくれる場所です。

がんを患う患者さんでは、病変の近くにあるリンパ節に転移を生じることが多いです。

ですので、まずはじめの診断時にはリンパ節の腫れの有無を評価しそこに転移を生じていないか確認します。

必要であれば細い針を刺して少量の細胞を採取して細胞診を実施します。治療後、定期検診の際にはそれらリンパ節が腫れてきていないか、その硬さが変わってきていないか、等に注意して経過を見ることとなります。

例えば、左右差のあるリンパ節、いつもより硬くなったり可動性(触って動かせるかどうか)が少なくなっているリンパ節。

これらは要注意です。

一度がんを患ってしまった動物達は、積極的な治療により根治できる場合もありますが、治療後も再発や転移が生じてこないかどうかは定期検診により注意深く経過を見る必要があります。

病気の種類、病状によってその頻度は様々ですが、1-2ヵ月毎の検診間隔となる場合が多いです。

胸の中やお腹の中のリンパ節や臓器をメインに評価していく場合はレントゲンやエコー検査など院内で実施する検査でなければ判断が難しいです。

一方で、がんの種類によっては体表のリンパ節に異常が出やすい場合があるため、日頃から意識して触って頂くことで早期に異常に気づくことができるかもしれません。

特に、ワンちゃんの多中心型リンパ腫では、全身の体表リンパ節が顕著に腫大します。

抗がん剤による治療で腫れたリンパ節は縮小していきますが、治療中あるいは治療プロトコール終了後に“再燃”した場合、再びこのリンパ節が腫れてきてしまいます。

再燃した場合は、投与プロトコール自体を変更したり、治療終了していた子では抗がん剤を再開して再びがんと闘っていくこととなります。

がん細胞が少ない状態で治療を始めることが望ましいため出来るだけ早く異常に気づく必要があります。

リンパ節の触診には少しコツが必要ですが慣れれば獣医師でなくても容易に実施可能です。

動物の体表リンパ節は、頭から尾の方向へ向かって、主に「下顎リンパ節」、「浅頚リンパ節」、「腋窩リンパ節」、「鼠径リンパ節」、「膝窩リンパ節」などがあります。

どのリンパ節も異常に腫大した場合は簡単に触知可能ですが正常〜軽度の腫大くらいでは触知できないものもあります。

この中で下顎リンパ節、膝窩リンパ節については腫大していない場合も少し慣れれば触知可能です。

浅頚リンパ節については少しわかりにくいかもしれませんが、腫れたものは触知可能かと思います。

リンパ節にはリンパ管を通じてリンパ液が流れ込みますが大体のリンパ液の流れは以下の図のようになります。図の中で、②が下顎リンパ節、③が浅頚リンパ節、⑥が膝窩リンパ節です。

 

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(リンパ液の流れ、「Veterinary Oncology vol5 No.4 2018 より引用」)

実際に触診している様子を示します。

下顎リンパ節。顔面静脈という血管の側にあります。下顎の骨の後ろ辺りに位置しています。

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浅頚リンパ節。上腕頭筋、肩甲横突筋の内側にあるので筋肉の内側を探るように触ります。

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膝窩リンパ節。膝の裏の脂肪組織の中に位置します。

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内股にある鼠径リンパ節(⑤)や、脇にある腋窩リンパ節(④)については、明らかな腫大が見られないか、その領域を触って確認します。ただし、これらリンパ節は重度に腫れない限り触知することが困難だったり、周囲脂肪組織との区別が難しいため必要に応じてエコー検査で評価します。

体表リンパ節は、ご自宅でスキンシップを取る際に少し意識して頂ければ何となーく分かってくるかと思います。

はじめはどれがリンパ節なのかはっきりと分からなくても、腫れてきた際には「あれ、いつもと違って何か丸いものが触れるかも。。」と早い段階で異常に気づくことができるかもしれません。

病院での検診も大事ですが、ご自宅においても今回のようなリンパ節セルフチェックを実施して頂き治療に結びつけていければ、と思います。

実際にどうやって触ればいいのか、気になる方は診察の際に仰って頂ければアドバイスさせて頂きますのでお気軽にお声掛け下さい。

がん(悪性腫瘍)は非常に手強くて、厄介なものです。

治療には時に大きな負担を伴い、頑張って治療を乗り切った後も再発や転移といった見えない不安がつきまとうものです。

少しでもその不安を緩和する手助けができれば、と思いつつ日々診療に当たらせて頂きたいと思います。

 

腫瘍科 前田

 

 

 

 

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