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神経・筋肉の病気

キアリ様奇形

キアリ様奇形とは?

キアリ様奇形とは、人間に見られる先天性奇形によって起こるキアリ奇形のうち1型に類似した奇形が犬で多く認められる事が近年解明され、その疾患に対する呼び名です。
後頭骨形成不全症候群(Caudal Occipital Malformation Syndrome: COMS)と呼ばれることもあり、小脳の一部が頭蓋骨の穴から滑り出して脳幹を圧迫してしまうことで脳脊髄液の流れに変化を起こし、脊髄内に異常な液体貯留(=脊髄空洞症)を起こし、様々な臨床症状を起こす疾患です。
小脳と脳幹が収まっている部分の頭蓋骨(=硬い容器)の大きさが豆腐のように柔らかい内容物に対して少し小さすぎる事が根本的な異常ではないかと考えられていますが、詳細な病態生理学は現在活発に研究が進められており、未だ解明されていません。
キャバリアキングチャールズスパニエル(CKCS)が特に有名ですが、それ以外の小型犬種でも珍しくありません。
また、キアリ奇形以外の原因でも脊髄空洞症が起こる事があるため診断には注意が必要です。

臨床症状

一般的に若い頃に発症することが多く、痛み、側湾症、ファントムスクラッチと呼ばれる片耳や肩の辺りを継続的に掻く行動異常などが非常に多く認められます。
キアリ様奇形を持つ動物は脳室の拡大、脳幹の形状異常に関連していると考えられる脳梗塞などを起こすことも知られており、それらによる痙攣発作や急性の脳障害などを起こす事もあります。
本症を持つ患者のうち約75%は次第に症状が悪化することが知られています。

診断

キアリ様奇形

白い*:後頭骨による小脳圧迫 黒い*:脊髄空洞症

診断には病歴と神経学的検査が基本になりますが、MRI検査が必要です。
ただし、臨床症状を伴わない動物でもキアリ様奇形がMRI上は認められることがありますので、診断は注意深く行わなくてはなりません。
また、本症に併発して他の先天性奇形が認められる事も珍しくないため、場合によっては全体像を把握するためにCT検査なども必要になります。

 画像診断のジレンマ

英国のDr. Rusbridgeらのグループは非常に活発に本疾患を研究されていますが、臨床的に正常な555頭のCKCSのうち12ヶ月齡で25%、6歳齡以上では70%以上の犬でMRI上は脊髄空洞症が認められたとの報告があります。
これは、年齢と共に脊髄空洞症が増加、進行することを証明していると共に画像診断で異常があっても臨床的には全く正常な犬が沢山いることを証明しています。
また、別の研究では首のみならず腰にも多くの犬が脊髄空洞症を起こす事が報告されています。(Loderstedt_2011_Vet J)
臨床症状と画像上の異常の両方を十分に理解して注意深く診断を下す必要がありますので、神経科専門医へのコンサルタントが勧められます。

治療法

1) 内科的治療:小脳による脳幹の圧迫や脊髄空洞症による痛みや不快感を軽減するために内服薬を使用します。
2) 外科的治療:後頭骨の一部を除去し、小脳による脳幹圧迫を軽減します。
約80%の患者で症状の改善が期待できますが、数年かけて徐々に症状が再発することもありますので長期的な予後は要注意です。
Rusbridgeらによる小規模研究では約50%の患者に再発が認められたとの報告があります。
近年、神経外科医によっては再発を防ぐために後頭骨の一部を除去した後に骨セメントと特殊な金属インプラントを用いて人工的に少し大きい頭蓋骨を形成する場合がありますが、長期的な成績は今後の研究で明らかにされる必要があります。

予後

様々なキアリ様奇形の症状の中で、疼痛は最もコントロールが難しい事が知られており、手術や神経原性疼痛に効果のある薬を併用しても疼痛はなかなか改善しないことがあるため要注意です。
これには、脊髄内において痛みを伝達する物質の分泌に変化が起こっている事が関与しているとの報告があります。
本疾患はこれから解明されなければいけないことも多く、研究成果によっては今後治療方法などが変わる可能性があります。