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神経・筋肉の病気

壊死性脳炎 肉芽腫性髄膜脳脊髄炎

犬の脳炎・髄膜炎について

犬や猫は他の動物と同様に、様々な病原体の感染によって脳炎や髄膜炎にかかります。
代表的なものは、狂犬病、犬ジステンパーウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルスなどのウイルス感染、外傷や内耳炎などによる細菌感染、エリキアなどのリケッチア感染、ネオスポラやトキソプラズマなどの原虫感染、クリプトコッカスなどの真菌感染などが挙げられます。

しかしながら、特に犬では病原体が見つからないタイプの脳炎が最も多く、詳細な原因は解明されていないものの免疫介在性の疾患(免疫システムが異常を来たし、自分の身体の一部を攻撃してしまうもの。
アレルギー反応と類似)であることが疑われています。

この免疫介在性が疑われる髄膜脳炎には、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)、壊死性脳炎、そしてステロイド反応性髄膜血管炎(SRMA)などが含まれていますが、特に前者2つの確定診断には脳組織の病理検査が必要となります。

GME

中齢(4-8歳)の小型犬種、特にテリア系の避妊雌に多く認められる事が広く知られていますが、大型犬を含めて幅の様々な年齢や犬種の患者が報告されています。
ウイルス性脳炎に類似した病変分布を起こすためSchazbergらのグループによって様々な病原体を検出する試みがされてきましたが、一貫した病原体は見つかっていません。

壊死性脳炎

パグ、ヨークシャーテリア、フレンチブルドッグ、チワワなどで報告があり、名前の通り脳組織の一部が壊死を起こす事が特徴の一つです。
比較的若い犬に多く認められますが10歳齢の報告もあり、GME同様に幅広い年齢層で可能性があります。

SRMA

髄膜上の細い動脈が炎症を起こす疾患で、ビーグルペインシンドロームとも歴史的には呼ばれていました。
5-18ヶ月齢の若い犬が重度の頸部痛を起こす事が特徴的で、発熱などを伴う事もあります。
ボクサー、ビーグル、バーニーズマウンテンドッグ、ジャックラッセルテリアなどに多く認められ、通常は急性に病気が起こった時期にはひどい頸部痛が最も一般的に認められます。
慢性的になると髄膜の肥厚や脳脊髄障害などが認められる事がありますので、発症時に正確な診断を行い積極的な治療を行う事がとても重要です。
また、治療には長期間を要するため、途中で治療を停止すると再発が多く注意が必要です。
治療計画は慎重に練られなければいけません。

症状

脳脊髄の中でどの部分がどの程度炎症を起こすかによって様々な症状が認められます。
痙攣発作、頸部痛、歩き方が異常、身体の麻痺などの明らかな神経系症状を起こす事も多いですが、一方で何となく元気が無い、どこかを痛がる、食欲が無い、など原因を特定する事がとても難しい事も少なくありません。

診断

壊死性脳炎 肉芽腫性髄膜脳脊髄炎

病歴と神経学的検査によって脳や脊髄の疾患を疑う場合にはMRI検査と脳脊髄液検査の両方が必要となります。
両検査とも全身麻酔が必要となるため、通常は麻酔をかけた際に両方の検査によって診断が下されます。
また、感染性脳炎で無い事を確認するためにウイルスなどの病原体を検出する検査が追加される事も多いですが、地域によってそれぞれの感染症の危険性も異なりますのでお住まいの地域によって判断が異なります。

壊死性脳炎は一般的に治療に対する反応が思わしくないため様々な研究者や獣医神経科医、病理医などが生前診断を模索していますが、現段階では脳組織の一部を採取せずにGMEや壊死性脳炎を確定的に診断する方法はありません。
しかしながら脳組織の生検には特殊な機器が必要となり危険を伴う場合もありますので、多くの場合に患者の犬種や年齢、臨床経過、MRI検査の結果、脳脊髄液検査の結果などを総合的に判断して暫定的な診断を下します。

治療

免疫介在性の疾患である事が疑われる場合には、糖質コルチコイドや免疫抑制剤を併用する事が一般的です。
様々な免疫抑制剤の治療効果が報告されていますが、どれも規模が小さく、また確定的な診断が行われていないものや治療後の経過が悪くて亡くなってしまった患者に使用した治療方法を比較検討するという手法がとられている事が数多くある研究を比較検討する上での大きなジレンマとなっています。
そのような状況ですので世界中の獣医神経科医によって最初に使われる免疫抑制剤は数種類に分かれますが、一般的に比較的副作用が無く一定の効果が期待できる薬が第一選択とされる事が多いです。

予後

髄膜脳炎の予後を予測する事は一般的に難しい事が多く、治療に対する初期反応によって判断されます。
壊死性脳炎が疑われる患者の予後は特に要注意ですが、GMEなども一部の患者では急激に症状が悪化したり積極的な治療をしても数日以内に亡くなってしまう事があり、十分な注意が必要です。

ステロイド剤や免疫抑制剤にはそれぞれ固有の副作用がありますので、診断治療は経験の多い神経科医などのアドバイスを受けることが勧められます。